展覧会『写真家ドアノー/ 音楽/パリ』美術館「えき」KYOTO
映画『パリが愛した写真家 ロベール・ドアノー 永遠の3秒』京都シネマ
この展覧会と映画に行った時期は、かつて勤めていた会社が事業譲渡で消滅し、当時の上司の退職や勤務先の店舗の閉店を知り、学生時代にアルバイトをした本屋の閉店を知り、京都でいちばんおいしかった(讃岐の味だった)烏丸御池の「いきいきうどん」が閉店してセブンイレブンになったことを知った頃。
相当に落ち込んで後ろ向きの精神状態だったせいか、ドアノーがパリの風景が崩れるのを見て「美しいものは儚い」と呟やくキャプションがついた写真にはぐっと心を引き寄せられました。
音楽の写真は、ジャンゴ・ラインハルトがブラスバンドと一緒に歩いている写真が心に残っています。
ホット・クラブ・スイングとクラリネットは相性が抜群なんだけど、金管楽器やサックスは(ジャンゴもエリントン楽団などと共演はあるけれど)音量や音色の面から、マカフェリギターがメインのジャンゴの音楽とうまく馴染めないのでは、という仮説を個人的に抱いているので(自身でサックスでジャンゴの曲を練習しているにもかかわらず)、ジャンゴとブラスバンドという組み合わせは強いインパクトがありました。こういう編成でもジプシー・スイングが成立した時代があったことは知らなかったなぁ。この先の自分自身の練習や楽曲のアレンジの面での大きなヒントになりそうです。
展覧会の半券で割引で見た映画も面白かった。現在ドアノーの作品を管理しているお孫さんが、お祖父ちゃんを紹介するドキュメンタリー。
ドアノーって相当に頑固な人だったと思います。スーツを着て撮影しているのに、良いアングルが欲しかったら躊躇なく道路に腹ばいになるるシーンに、自身が欲しい「画」へのこだわりを強く感じました。
配信『ブリッジ(橋本歩のsolo unit)3つのライブ』(ミシェルルグラン トーク&ライブ/ ブラジル2021 トーク&ライブ/ ブリッジオーケストラ)
チェリスト、橋本歩さんのリーダーユニットのライブを配信で。特に面白かったのは「ブラジル2021 トーク&ライブ」の回。
写真やパワポなど視覚資料に頼らず、音楽と語りだけでブラジルの光景や彼の地のミュージシャンの生活を聞き手に想像させてくれる。とても楽しい時間でした。
トークゲストの中原仁さんがステージングやミュージシャンの心理をしっかりと心得ていて、トークに入るタイミング、どれくらいの長さで誰に何を話してもらうか、細やかに気配りをされていたのが印象的。
トリオとトークゲストというよりも、4人が親密にコミュニケーションを取り合うカルテットのライブを観ているようでした。
講演にしては演奏時間がしっかりあるし、音楽のライブにしては語りの時間が充実していて。講演とライブ、両方の良いところをミックスさせた好企画でした。合間に出てくる地名、人名や曲名をネットで拾いながらアーカイブを何度も聴き返しました。今後もこういう「配信ならでは」のアイデアを持つ人が増えてくれるといいなぁ。
数年前から江藤有希(violin)、橋本歩(cello)、笹子重治(guitar)の江藤有希トリオを好んで聴いていて、笹子さんのがっつり弾き込むスタイルには毎回感服していましたが、いやはや、今回も言葉にならないくらい凄かった。
そして、3回ともにサックスとフルートで参加されたヤマカミヒトミさんを知ったのは大きな収穫でした。ダークな音色でサックスを吹ける人、意外と少ないんですよね。
ライブ『山本昌広(as)甲斐正樹(b)福盛進也(ds)』大阪天六・バンブークラブ
セロニアス・モンク、オーネット・コールマン、古いスタンダート(Body and Soul)、オリジナル曲。癖が強い素材を織り交ぜても、トリオの音楽に統一感がある。
特に若い人たちがオーネット・コールマンの音楽を自由自在に取り込む姿は、頭でっかちな年寄にはうらやましく感じます。
お客さんに媚びることなく、自分たちが信じる音楽を追求するハードボイルドなライブ。
各人が自由に演奏しているように見せかけて、とんでもなくえげつないタイミングでキメのフレーズを合わせるのが格好良い。共演を重ねてお互いを知り、音楽を知る、その深さは相当なものだろうと思います。
今回は小さな会場なのでPA無しの生音ライブかもと楽しみにしていましたが、期待以上にディープな楽器の生音が聴けたのは嬉しかったです。
コロナ渦が始まって2年近く、YouTubeやSpotifyのペタペタな音を長時間イヤホンで聴いていた身からすれば、倍音がしっかり含まれた音を最高の演奏で聴けるというのは、本当に贅沢なご褒美でした。
2021年の最後の生演奏のライブに大満足していたのも柄の間、仕事納めでご挨拶に来られた方がコロナの濃厚接触者と判明し、年末年始は念のため自宅にて蟄居。
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